ここは日本から遠く離れた地、グアテマラ。実はここの小学校で使われている算数の教科書の作成を支援した 国はどこかわかりますか?バレバレですね。でもそうです、日本なんです!日本の青年海外協力隊(以下、協力隊)の方々から草の根的に始まったプロジェクトが、JICAの技術協力プロジェクト になり、今ではそのプロジェクトを通して作成された 教科書はグアテマラの国定教科書となり、まさにグアテマラ全土に広がろうとしています。今回はその最前線に立つ河澄専門家にこの壮大なプロジェクトのこれまでと、これから、を伺ってきました。
*原智佐様の資料「JICAの基礎教育分野の協力」(2008)より抜粋
●JICAの教育協力は約250億円/年で、JICAの全事業の約20%を占めます(2008年)。
●このうち基礎教育分野の協力は136億円で、教育協力全体の56%です(2008年)。
それだけノウハウと実績があるわけです。フィンランドの教育がすごい!とか思ってるあなた!日本の教え方だってすごいんです!率直に、こんなに手伝っているんだ!感謝されてるんだ!そう改めて日本のすごさを感じた取材でした。 中南米ではホンジュラスでの協力に始まり、グアテマラはもとよりエルサルバドル、ニカラグア、ドミニカ共和国、コロンビア、チリなどで算数プロジェクトをはじめとする協力が行われてきました。
以下より、今回取材をさせて頂きました河澄専門家との会話形式でお送りします。
【このプロジェクトが行われることになった背景を教えて下さい】
算数教育というのは80年代から協力隊の人々が算数に対する支援をしていたんですよ。ホンジュラスにおいて草の根で行われていたプロジェクトが高く評価されていて、日本=算数という評価をもらっていた。けれどもホンジュラス中央政府の認識がすごく低かったんですよ。現場ではやっていたけれど、政府として、教育省として、ではその国全土の授業のカリキュラムにどういう風に反映していくか、他の学校の先生への教員研修をする際にその方法がとりこまれているか、など細かにみていくとそこまでは浸透していなかったんですね。その反省をいかして、協力隊の草の根で始まったプロジェクトからJICAの正式な技術協力プロジェクトに変更したんですね。それが2003年頃からです。その頃から、徐々に中米諸国において技術協力プロジェクトによる算数支援の動きが始まってきたんです。
【他の国がやってるから、グアテマラでもやろうという感じだったのでしょうか】
同時期にホンジュラスで算数プロジェクトをしていた隊員の方が、後にシニア隊員という形でグアテマラに来たんですね。シニア隊員というのは協力隊の経験者で、一つの目的に向かって複数の隊員が送り込まれた時にリーダーになる人のことを指します(現在はこの役職はない)。
グアテマラにおいても算数教育に問題があるから、ホンジュラスの例をこちらに適用できないか。そこから始まったんですね。これも草の根運動として案件を自分達で形成して行っていきました。グアテマラでこのプロジェクトをやろうという気運が高まった理由に、グアテマラの進級システムにおける 問題もあったかと思います。
【 進級システムにおける問題といいますと、どのようなものなのでしょうか。】
グアテマラで問題視されているものとして、就学率と留年率の話がよくでます。1学年における12.0%の退学率と27.6%の留年率。純就学率というのは、例えば小学生であればここでは7~12歳でなんですけど、分母にくるのが7~12歳児全体の数、分子が7~12歳児で学校にいる児童数となります。純就学率はその割合です。これは2009年のデータでいえば98.7%くらいとかなり高い。 ずいぶんと改善されました。けれども問題は留年率。これがすごく高いんです。1年生が終了できなくて留年する。
グアテマラは自動進級制ではなくて2年生に上がるためには試験に合格しないといけないんです。
【そんなシステムになっていたとは知りませんでした!】
1学期から累積している成績によって審査されるんですけど、4割くらいの児童が進級できないんですよ。これは子ども達にとっても問題なんですが、政府にとってもそうなんですね。国家予算から教育分野全体が運営されている中で、入学した子どものうち60%しか進級できなかったら、残りの40%をまた教育しなおさないといけない。これは大きな支出ですよね。政府としてもこれはどうにかしないといけない。グアテマラの進級制度として、国語と算数は1教科落とすだけで進級できないんです。その他の教科(社会、理科、体育、音楽など)は2教科落とすと進級できなくなります。
ですから進級制度を変えるというのではなく、どうやったら進級率をあげるか、ということについては国語と算数が一番の課題となる。国語については他にドナー(支援団体)が沢山いて、また母国語がスペイン語であるグアテマラでは日本が協力できる余地は少ない。算数は、日本の科学技術は発達しているし、算数教育も進んでいるので、それで要請がきたという流れです。
*ここでは進級制度 における問題性もありますが、今回はプロジェクトの過程を追うことに注力するのでこの問題は割愛することとします。
【それでグアテマラでもプロジェクトとしてやることになったんですね】
私は先ほどお話しした、ホンジュラスの隊員をされてその後にグアテマラのシニア隊員をされた方の後任としてやってきて、2003年~2006年の3月まで協力隊のプロジェクトにて働きました。ケツァルテナンゴ県、サンマルコス県、ソロラ県、スチテペテス県の4県で活動を始めました。これがグアテマラでの算数プロジェクトのはじまりです。そこで小学校1年生から3年生の教科書(以降国定教科書となった教材です)と教師用指導書を作った。ここまでが草の根運動でやったことですね。それからJICAの技術協力 プロジェクトに変わりました。これが始まったのが2006年4月で、これが第一フェーズと呼ばれている第一段階です。
【協力隊員の草の根運動から全国に広がっていったなんて素敵な話ですね!第一フェーズではどのようなことをされたのですか?】
目的は、
・草の根運動のときに作成した小学校1年生~3年生の教科書と教師用指導書の見直し
・4~6年生の教科書と教師用指導書の作成
で、実は私はこのプロジェクトにはあまり関わっていなかったんです。第一フェーズで、小学校1年生~6年生までの教科書と教師用指導書を作って、これがグアテマラの国定教科書になることが目標だったんですね。そして無事、国定教科書に選定されたので、今度はそれをいかに全国に「普及」させていくか、という段階に入りました。
【見事 日本が作成支援を行った教材がグアテマラ全土に広がることになったんですね!】
そうなんですよ!ちょうどその頃に、国立サンカルロス大学内の中等教育教員養成校(グアテマラの短大の資格を与えている機関も兼ねている)の校長先生が日本で教育分野の研修を受けていて、これが終わったあとに「学んだことをどうやって自分の国に適用できるのか」というアクションプランを立てたんですね。その際に彼が立てたプランが「全国に教員研修計画を立てて教員の指導能力を高める」というもので、教育省、教員組合を巻き込みやろうとしたんですよ。
・週末、希望者のみ。受講する教員は教育省からの奨学金により実質上無料で参加できる。
・修了すると短大卒業の資格がもらえる。
・この資格を持つことで25%の昇給がある
という教員再教育プログラムを作成しました。私達(JICA)も作った教科書をどうやって先生達に普及させていくべきかを教育省と一緒に考えていたときの事だったので、これは普及させるには非常にいいプログラムだと思い、このプログラムの算数の部分をJICAが手伝うことになったんです。
*これらプロジェクトの流れをまとめると以下のような流れになります。
【ついに全国に広がっていくんですね!普及のさせ方はどうやっていくのでしょうか】
先ほどお話しした教育省が国立サンカルロス大学と協力して行っている教員再教育プログラムの算数科に対する支援とは別に、教育省が独自に算数教育国家プログラムを実施していて、JICAは現在このプログラムに対する支援も行っています。これは、希望教員のみに対して研修を実施している教員再教育プログラムとは異なり、全国の県教育事務所・地区教育委員会などを通して全ての先生方を対象に算数教材の活用法を研修しています。この算数教育国家プログラムに対しては、協力隊の皆さんも支援しています。
【教材作成期の作業は、具体的にどういうプロセスだったのでしょうか】
1. まず教材を中央(首都であるグアテマラシティの教育省の中で教育省とJICAが協力して)でつくり、これを4つの県に送ります。
2. 4つの県にはそれぞれ4校のパイロット校(実験校)があり、各パイロット校において協力隊とそのカウンターパートが先生達に研修をする。
3. 研修の後は授業観察をする。どこが分からなかったか、質問はありますか?などとサポートをしながらモニタリングをする。各県に1名ずつの協力隊と専属のカウンターパートがいるので、同じ学年の先生を集めて、同じ教材のここの部分を私はこうやって使っています、などの共有会をする。
4. 集まった情報を中央に送ってもらい、改定版を作成する際の資料にする。そしてまた、新しく作った教材を送る、というサイクルですね。
これは、技術協力プロジェクト第一フェーズにおいても同様で、その際には4県における16パイロット校に加え、首都のグアテマラ県においてもパイロット校の協力を得ながら作成しました。
【どのくらいの頻度で学校に通うのでしょうか】
週に1回はモニタリングに行きました。各学区には指導主事がいるんですが、半年に1回、多くても3ヶ月に1回学校に来るか来ないかで、学校に来ても校長先生と話をしてばかりで授業を見る時間は少なくなってしまうんですよ。指導主事は技術面と行政面の両面をみているので、そうすると教師が何人足りないとか、生徒が多すぎるとか、そういう行政面の対応が多くなりがちで技術面への対応に時間が当てられなくなるんですね。それは残念なことですが現実としてあって、結果として私たちの活動がそれを補うような形になってしまいました。
【週1回というと結構なペースですね】
はい。最初は先生達にとってはプレッシャーで、嫌がられました。「えー本当に来るの?」みたいな。でも目的をきちんと話して、人間関係を構築していくと理解してくれる先生が増えました。先生達に毎回アドバイスをしてあげることで心を開いてくれる先生も増えました。その過程で「どうやったらもっと分かってもらえるかしら?」「今回の教え方は子ども達に伝わったかしら?」と積極的に私達を活用してくれる先生方が増えて嬉しくなりました。
【ありがとうございます。概要はだいたいわかりました。最終的にどのくらいの先生達に教え、またそれによって最終的にどのくらいの生徒がこの教科書によって授業を受けるようになるのでしょうか】
協力隊プロジェクト(草の根活動のプロジェクト)と技術協力プロジェクトの第一フェーズのパイロット校の先生方は全部で207名、その他、第二フェーズにおいて支援している教員再教育プログラムにおいて研修を受けた先生は3,532名となります(2011年1月時点)。また、教育省は現在全国の先生方に対して算数指導法に関する研修を展開しているので、それを考慮すると、グアテマラ全国266万人の児童がこの教科書によって算数の授業を受けることになりますよね!
以上前編でした。いかがだったでしょうか。後編は具体的な「いったい日本の教え方のどこがすごいのか?」を中心に掘り下げていきます!お楽しみに!
後編を読む。


























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